第19話 砂嵐はシネマのごとく

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ジャイサルメールの城の全貌
手前に有るのはお墓
クジャクが自然にいた

  6月12日 朝8時、砂漠の中の終着駅ジャイサルメールに着く。もうこの先は砂漠だけの街だ。町外れの駅からは乗合ジープで街へ向かう。当てにしていたエアコンの付いたバンガローは150Reと高いので他を探す事にした。照りつける太陽はさすがに砂漠の物、白くまぶしい。ラクダが街の中のあちこちにいる。シンドバッドの出てきそうな街中を歩き、城に近く風通しもよい20Reの宿を見つけた。

 10時、ひとり街へ散歩に出かける。カラフルな刺繍の付いたラクダの革の靴を売っている店に顔を出しては値を聞き楽しんだ。マンゴウを1s(4Re)とビスケット、ラッシーを1杯飲んで帰る。ここのラッシーは緑がかったクリーム色で、上に浮いた脂がうまかった。暑い昼過ぎは昼寝をしていたが、3時頃何か外の急変に驚き起きる。「砂嵐だ!」すごい風と共に隙間から砂が吹き付ける。その窓の隙間から入る光の筋が砂ぼこりに浮かびオレンジ色だ。部屋の中はオレンジ色に染まってしまった。目を細めて外を見るとそこもオレンジ色の別世界。人も建物も、まるで映画のワンシーンのようだ。ものの数分ですさまじい雷雨となる。しかし大粒の雨の中、子供たちは雨に打たれて楽しんでいた。雷も遠くなり、辺りが静まり返り、涼しくなった。停電の部屋の中はすごい砂ぼこり。気が付くと口の中もざらざらだ。砂漠の気象の激しさを痛感した。

 夕食は城の中のレストランへ食べに行く。ここのホテルはオフシーズンで泊り客がひとりもいない状況。普段100Reの部屋を15Reにするから泊まってくれと頼まれた。明日の約束をして帰る。夜は寒いくらいでよく眠れた。
 6月13日 朝食後、城の中のホテル「ジャイサルキャッスル」へ移る。部屋は城壁の一番上にあり、すばらしい眺望だ。果てしなく砂漠の地平線が見える。

 10時、観光に出かける。まずはこの街の大切な水瓶「ガディサルタンク」へ。この水は緑色をしていて、いろんな動物が水飲みしている。そんな水を女の人が頭に大きな瓶を乗せて来ては汲んで行く。水は濃い緑色をしている『本当に飲めるのかしら?』『もしや、あのラッシーの緑色はこの水の色!?・・・』そうなんです 実は

ガディサルタンクに水くみに行く人々

 街なかは土産屋の子供に連れられて、石の彫刻のすばらしい建築を見て歩く。どれもが貴族の私邸で、その豪華さには驚く。大理石やこの辺で採れる硬い砂岩の透かし彫りだ。

 
透かし彫りの出窓が美しいハーベイ(私邸)の前で

 午後はのんびり昼寝したり、葉書を書いたりする。僕達だけの夕食を賄い終えるとマネージャー以下スタッフは映画に行ってしまった。日の入りを見ていたが、地平線に入る前に見えなくなってしまった。どこからか山羊の帰る群れが見えた。静かな夜を迎えた。

 6月14日 6時起床 鳥の声、山羊の声。ビスケットとマンゴウを食べる。黒山羊がいつもの方角へぱらぱらと歩いて行くのが見える。

 バダワークの王子の墓にて土産屋の子供、オンパスカル君に案内してもらい王様の御墓バダバークへ行く。新聞配達に使うようなごついレンタサイクルでいざ!6qの砂漠行だ。飛び出す鳥や刺のあるサボテンをムシャムシャらくだが食べるのを眺めてはペダルをこいだ。うねうねと続く道もすいすいと目的地に着いた。まるで海のような砂漠に小さな村が現れて、そこに立派な墓陵があった。墓守をするかのように野生の孔雀がいた。お妃の墓石は小さな貝の化石が入っている石でできていて、その石はこの辺のどこにでもある石のようだ。帰り道では裕子が気分が悪くなり「ゼイゼイ、ハアハア」と地獄の日照り道だった。日陰は無い、喉も乾く。砂漠は侮れない。午後は休息。

 5時半、夕食後荷造り。ホテル代を精算してジープに乗り駅へ行く。城を美しいシルエットにして、夕陽がまんまるに沈んだ。寝台もすぐに見つかり砂漠の夜行が走り出した。

 6月15日 8時 ジョドプールに着く。荷物を預けて、リフレッシュルーム(駅の施設)のレストランで朝食。ウエイティングルームではシャワーも浴びて休息した。夜行のアグラ行きに乗るまで昼間はここに留まる。街なかも少し歩き、昼食は金のドアの高級なレストランで、めちゃくちゃ食べる。ロースト・マトンは実にうまかった。エアコンも効いていたのでコーヒーまで3時間は楽しんだ。ウエイティングルームで2時間昼寝して、また金のレストランへ。ミルクとアイスティーで2時間ねばった。ウエイティングルームは男女が別になっているが、裕子は「男の子はでて行け!」と言われ悔しがっていた。インドの女は皆サリーで着飾っているのに、裕子は髪も短く、ズボンを履いていたからだ。塩っぽい水、発酵してたスイカともおさらばして、列車に乗り込んだ。今度は24時間の汽車の長旅だ。

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