激励寄稿

やすらぎと豊かさを実感できるまちづくり

(地域住民の、地域住民による、地域住民のための未来づくりを…)


武蔵大学人文学部教授(前人文学部長)
     黒沢 英典(両神村出身)

 全国各地に「平成の大合併」の旋風が吹き荒れている。多くの市町村は不安と思惑の間でゆれている。合併は、なによりも、そこに住む一人ひとりが、主体的に地域の未来の姿を描いていくことを前提にしなければならない。
 現に、ここ小鹿野町でも昨年の春以来、地域住民の、地域住民による「西秩父三町村合併を実現する会」が結成され、昨年八月二十四日(日) の「自主管理住民投票」を目前にひかえた集会では、大勢の町民が結集し、次のような「決意表明」が採択された。
《 いま確かな未来への鼓動が聞こえます。
 私たちの郷土、歴史と文化の郷土、小鹿野町が私たちの力によって新しく生まれ変わろうとしています。
 地域住民による地域住民の地域住民のための住民投票が成功し勝利することによって、
西秩父の黎明を迎えるのです。
 新しい地域づくりがはじまるのです。
 いま、力強い未来への鼓動が聞こえます。 》

 このように、戦後六十年ようやく、戦後民主主義の精神が、合併に揺れる各地に、こうした形で地域デモクラシーや住民自治を考え直す動きが芽生えてきた。この動向は、財政の効率化や地方行政の事務権限の受け皿整備だけでは、住民を納得させる事は出来ないことを如実に物語っている。
 住民自治の根本である自己決定・自己責任の拡充は、合併を考える運動を契機に市町村の現場では軽視できない大きな課題として急激に浮上してきた。すなわち、合併問題を考えるなかで、地域住民のなかに地方分権をテコに住民自治の気運が次第に醸成されてきた。
 過疎化の激しいこの西秩父二町一村、旧くは二町五か村の人々が、遠く古代から近世・近代をへて現代、そして未来へ、この西秩父と言う雄大な自然とそこに育まれた人々の日々の暮らしを支えるきずな、掛け替えの無い伝統文化を地域活性化の資源として、人々がこころをひとつにして、付加価値を高める地域づくりをしていくことが今私たちに課せられている。
 いま、最も大切なことは、この西秩父に住む人々が、自主・自立・自助の精神によって《地域の力》を掘り起こし、協力しあって《やすらぎと豊かさを実感できるまちづくり》に取り組むことのできる行政組織を構想し構築してゆくことが、焦眉の課題である。
 この西秩父に暮らす人々の共有する風景と伝統文化そして、こころのぬくもりを大きな地域資源として、協力し、英知を出し合いながら、共に汗をかきながら、この西秩父に生きることを誇りとし、この地に限りない愛着をもつひとびとが増えていくとき、この地域の新たな鼓動が始まるのではないだろうか。
 わたくしたちは、いまこの地域の新たな歴史の岐路に立っている。この限りない青空と山々の豊かな緑と水、そして伝統文化・人とひととのきずな等の、西秩父の豊饒な風土を掛け替えの無い資源として、この地域を活性化し、子どもたちや孫たちやひ孫達に世代を越えて、この地に生まれ育つことの《誇り》と《愛着》を育む《やすらぎと豊かさを実感できるまちづくり》を実現したい。
 十年さき、二十年さき、百年先に思いを巡らしながら、《地域住民の・地域住民による・地域住民のための》《地域おこし》《まちづくり》に励んでいこうではありませんか。        おわり

西秩父三町村合併を実現する会