Hideo Takahashi
秩父郡小鹿野町下小鹿野 817
(みにぎゃらりーIZUMI 詩人高橋英夫さんが開設したガレージギャラリー)
死語
ふつうでなかった国から
ふつうの国になって
ふつうの武器を持って
ふつうの兵士となって
ふつうの戦争のできる
国となって
どこへでも
のこのこと出かけてゆく
他国の人を殺す場合もある
他国の人に殺される
場合もあると
のたまわったオエライさんも
いたが−
最初の被害者はだれか
最初の加害者はだれか
なあんて きいてはいけない
被害の出ぬところへ
行くのだから−
万一にも その人に
「戦死」という
二文字を当ててはいけない
とうに死語になって
いるのだから−
詩集「窓から」より 2009.6
N氏よ
N政治家よ 私は問う
核兵器とは何ですか
核戦争とは何ですか
抑止力とは何ですか
核戦争に勝ち負けはありますか
あなたはいくど
ヒロシマ ナガサキへ
行きましたか
東松山の
原爆の図を
何回見ましたか
チェルノブイリの写真や
第五福竜丸の写真を
何枚見ましたか
三千度の高温を
イメージできますか
峠三吉の詩を
イメージできますか
あなたの娘や息子が
もがき苦しむ姿を
イメージできますか
人間とは何ですか
生きるとは何ですか
N政治家よ
日本を築いてもらわねばならぬ
生まれたばかりの赤ちゃんに
何を訴えますか
日本を背負ってきてくれた
臨終まぎわの人に
どのように語れますか
ヒトがコトバを発することの
重みについて−
詩集「窓から」より 2009.6
ある日
大人も
子供も
放射能よけの防護服を着ている
犬も 猫も
頭からすっぽり
白い布で覆っている
だれがだれだかわからない
どこの犬だか猫だかわからない
あんただれ お前の亭主だ
あんただれ あなたの妻よ
今街は白一色
迷いこんだカラスをのぞいては
かつて白は清潔の証であった
白いシャツ
白い壁
白い花
何もかも放射能に汚染されて-
いま清潔の色は何色?
防護服着用を義務づけられた群れが
ビルの中に吸いこまれては
吐き出される
桑の貝がら虫のように
いたるところに
立ち入り禁止の立て札
放射能の数値を示す電光掲示板
人々は見向きもしない
この光景はどこかでみたような・・・・・
そうだ あの劇の一コマ
あの映画の一シーンだったかも知れぬ
さて ここは
どこの国?
どこの街?
「ある帰郷」1996.5より
親子
水の出し放しは おばあだんべ。・・・
「ある帰郷」1996.5より
高橋英夫の詩と挿画展 1997/11〜銀座フォレスト&深谷市平可屋
アメリカシロヒトリ
アメリカシロヒトリというから
どんなにでかい虫かと思ったら
思いのほか小さな虫だった
日本の風土に合っているのか
虫の方で合わせているのか
桜の葉や桑の葉を
手当たり次第食いつくす
いつ上陸したのか
何にまぎれこみ
何ものに送りこまれたのか
いまでは日本を代表する虫気取り
次々に二世三世が誕生し
ここをアメリカと思いこんでいるようだ
妻は何匹とったと
得意そうな顔をしているが
とったうちには入らぬ
薬剤散布をしたとて
ひるむようなやつらではない
天敵からも巧みにのがれ
目立たぬところに産卵し
繁殖しつづける
立派な国名を背負って
どこまでも
出向いてゆく
頼まれもしないのに−
2009/6/30 詩集「窓から」より
カレ カレは生涯、 無名の画家であった。 カレは生涯、 人に教わることはなかった。 人の技をぬすんだのである。 有名画家の絵であれ 子供たちの絵であれ 多くの絵をみていたのである 自分の絵を描く時間より 長かったのかもしれぬ。 暇をみつけては野山を いくどもみに行っていた。 カレは生涯、 他人の絵を買い求めなかった 自分の絵をすすめることもなかった。 他人の絵を ほめることも けなすこともなかった。 カレが描き残した作品は 決して多くはなかったが どの一枚も 己の全てを出し切ったものである。 カレには ただ 絵を描く必要が あっただけである。 オレはカレの絵から 何かをぬすみたいだけである。 二〇〇八・九・二七 高橋 英夫 |
※カレとは急逝した級友 新井辰雄氏のこと |
親子 水の出しっ放しは おばあだんべ。 わしじゃねえ。 おばあに決まってる。 決まってるたって わしじゃねえ。 猫だんべ。 障子を開ける猫はきいたことがあるが 猫が水道の蛇口を ひねるわけがねえ。 わけがねえたって わしじゃあねえ。 強情なおばあだ。 強情なせがれだ。 |
著者14歳の時 |
たまには たまには空を見上げたい カマキリみたいに たまには風の音をききたい 小鳥みたいに たまには動物にさわりたい 幼児みたいに たまには土をかぎたい 農夫みたいに たまには言葉と格闘してみたい 詩人みたいに たまには生きる意味を忘れたい 夫であり父であることを |
「ある帰郷」より |
「夢を売る男」 1963年刊行 2020年復刻版発刊 |
◆ | 「囚われの盆地」1978年刊行 カバー写真:井上光三郎 |
「眼のない魚」1985年刊行 表紙絵:斉藤政一 |
◆ | 「ある帰郷」1996年刊行 発行所:まつやま書房 カバー写真:南 良和 |
「窓から」の詩の中から 曲を付けて披露されました。 ↓ |
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「窓から」2009年刊行 表紙絵:浅見哲一 |
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高橋英夫 詩集 そういえば・・・ 2019/6/21初版 表紙絵:わたなべさもじろう |
高橋英夫 略歴
Hideo Takahashi
秩父郡小鹿野町下小鹿野 817
1939年 小鹿野町に生まれる
1963年「夢を売る男」刊行(2020年復刻版発刊)
1978年「囚われの盆地」刊行
1985年「眼のない魚」刊行
1996年「ある帰郷」刊行
2009年「窓から」刊行
2019年「そういえば・・・」刊行
その間「ふるさと文芸館;第12巻」、「土とふるさと文学全集;14巻」、「天山牧歌;北九州市・秋吉久紀夫氏編集」、「全北文学;韓国」などに作品を掲載。「文芸秩父」に創刊時より終巻145号まで参加。2017.11オジサンタの会お宝ラリー展にて自宅開放個展開催。
埼玉詩人会所属。
高橋英夫の朗読
ほどほど | |
戦争 | |
深夜作業 「夢を売る男」より |
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祭りの太鼓 「夢を売る男」より |
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もうひとりのオレ | |
そのくらいのこと |