読売新聞2022/10/07
「ウィキペディア転用で申し訳ないんですけれども……」。昨年10月の登米市議会教育民生常任委員会。排水処理の方式を問われた同市東和町のバイオガス発電所の事業者が説明した根拠は、インターネット上の百科事典だった。
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景勝地「三滝堂」近くに建設が予定される施設は、1日100トンの燃料を必要とする。その具体的な供給元の社名は明かされなかった。委員長の武田節夫市議は「きちんと見ていかないと、とんでもないものが建設される」と懸念した。
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だが、この計画は、環境影響評価(環境アセスメント)の対象にならない一定規模以下に収まっており、地域住民や市が全容を把握することは難しい。
2020年9月に開かれた1回目の住民説明会で、住民は発電に伴う排水を川に流す計画だと知った。水質汚染などの不安を訴えると、事業者は翌年、設計を変更して、施設内の蒸発濃縮装置で蒸発させる方式に改めた。
「そんな都合のいい話があるのか」。突然の変更に、計画に反対する市民団体「登米市の自然を考える会」の斎藤政孝代表(72)は首をかしげた。今年4月には計画が再び変更された。排水の一部を再利用し、残りはタンクローリーなどで外部に搬出するという。搬出先は不明だ。斎藤代表は「住民を納得させるために口から出任せを言っているようだ」と不信感を募らせる。
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採算性にも疑問がある。東北地方のバイオガス発電施設の関係者によると、多くの施設は食品メーカーなどから廃棄物処理の委託費を受け取り、食品の残りかすなどを引き取る。しかし、今回の事業者は廃棄物処理の認可を受けておらず、有価物として購入することになる。
この関係者は「委託費をもらうどころか、逆に払う方法で採算が取れるのか」と言う。廃棄物処理業には別の許可要件が必要となり、「できるだけ早く稼働するため、あえて許可を取らずに隙間を突いている気がする」と推し量る。
バイオガス発電所の運転開始期限は、FIT認定から4年。24年6月までに開始できず、手続きも取らなければ認定が失効する可能性がある。
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FIT認定を所管するのは経済産業省だ。東北経済産業局の担当者は「FITは計画が始まる前段階で申請するケースがほとんど。その後に計画が変わることもある」とする。排水処理の変更が行われたことも「問題ない」とする。
市が打つ手は限られる。市内で1000平方メートル以上の土地開発を行う場合、事業者に開発協定を締結するよう求めている。しかし「道路、鉄道などの輸送の便に支障がないか」といった審査項目にとどまるため、事業の具体的な内容には踏み込めない。
事業者と協定に向けた協議が行われた7月27日、同席した市の幹部は無力感をにじませた。「もし審査項目以外の部分まであれこれ質問したら、向こうから訴えられるかもしれない。市の権限でできる範囲でやるしかない」。市議会は3日、事業者がFIT申請書類を偽造した疑惑があるとして再審査を求める意見書を可決し、経産相に提出した。
読売新聞は6日にも事業者に電話取材を試みたが、返答はない。
登米市東和町のバイオガス発電所 敷地面積9999平方メートル、年間発電予想量は1500万キロ・ワット時(一般家庭約4000世帯分)。食品の残りかすから発生するメタンガスを燃料に発電する。発電に必要な1日約100トンの残りかすは県内外の食品メーカーなどから有価物として購入するとしている。千葉市の合同会社が固定価格買い取り制度(FIT)で2020年6月に認定された。21年10月に都内の「合同会社開発73号」が事業を引き継いだ。