被災地の現状と放射線のはなし

2013/4/2

「東日本大震災 
   被災地の現状と放射線のはなし
     元研究者が語る放射線の影響 」

NPO人権センターHORIZON
代表 片岡 遼平さん


第1部 支援活動と被災地の現状

放射線が人体に及ぼす影響について研究を続けていましたが、リーマンショック以降の研究費削減によって(今、研究者は皆そのような苦しい情勢にあります)研究室を後にし、3.11を契機に、熊谷にある解放同盟事務所からトラックで被災地へ向かいました。岩手・宮城の沿岸市南北250キロを被災地支援活動の舞台としてきましたが、解放同盟の責任者として4,5,6の3か月泊まり込みで活動してきました。被災地支援として、JTSから提供された20フィートのコンテナ10台分もの豆乳と長靴を、また、埼玉からは生鮮野菜を救援物資として配って歩きました。とくに行政の目の届かない、避難所以外で暮らす被災地の人々も探して配りました。また、各プレハブに縁台を作ることでコミュニティーの交流が生まれ、特に引きこもりがちな男性が縁側作りに参加するなど、新しい動きにもつながっています。さらに、宮城県の特産品を埼玉で販売し、その収益を復興に充てるという活動も行っています。被災地以外にお住まいの方は、ボランティアしてくださらなくても、旅行に来るだけでもいいので、とにかく被災地を忘れないでほしいと思います。ようやく復興し始めた被災地ですが、居住地の高台移転において、山を削り敷地を形成するのですが、土地が落ち着いて住宅建設できるのは5年後になってしまいます。また、マンション形式の復興住宅も大船渡で1軒建っただけで、これも2〜3年かかります。住居の建築費は自費負担ですし、被災地では非正規雇用が常態化していますし、二重ローンを抱えなければならない人もいます。復興はまだまだです。


第2部 放射線の影響

福島県内では今も16万人以上の人々が避難しています。また、福島から疎開した人々への偏見・差別は酷く、多くの実例があります。しかし、放射線そのものは、ジャガイモの発芽防止や医療(殺菌含む)など、現実的には様々な領域で使われています。そして、これは病原菌と異なり、他人に伝染するいうものでは決してありません。科学者や政治家たちは福島へ「いつか帰れます」と言っていますが、少なくとも50年経っても帰れないとハッキリ言うべきだと思いますし、原発なんか再稼働すべきでないことは明らかです。放射線には、アルファ線とベータ線とガンマ線、X線と、中性子線があります。(外部被ばくにおける)放射能汚染で特に問題となるのは、ガンマ線です。アルファ線は45ミリしか飛びません。ベータ線は1メートルクラス。ガンマ線・X線は鉛や厚い鉄の板でないと防げない、中性子線はさらに鉛+水が必要です。放射線を測る単位にはいろいろありますが、ベクレルは放射線を出す能力を指し、シーベルトは放射線を受ける生体の影響の強さを示します。放射線は距離の2乗に反比例して弱くなり、放射線源から1メートルのところと2メートルの距離にあるところとでは、1:4の関係にあります。福島第一原発から直接放射性物質がここまで拡散して直接浴びるということは、現状ではありませんが、もし冷却機能を失って再臨界(臨界:核分裂が連続的に発生すること)を生じた場合、重大な危険性に晒されます。直接(外部)被ばくによる100%の人が死亡するのは、7000mSvです。4000mSvでは、半数の人です。確実に急性症状が現れるのは1000mSvです。それ以下は、急性症状は出ないけれど、影響は現れます。今問題になっているのは、10mSvから100mSvの間で、政府は「直ちに影響はない」と言っていますが、かえって不安になりますよね。なぜ放射線被曝が危険かと言いますと、細胞を放射線(ここではベータ線を例にして)が細胞内を進行する際、DNA分子を切断損傷し、さらに、活性酸素(フリーラジカル)を発生させ、これもDNAを傷つけるからです。染色体と呼ばれるものは、DNAとタンパク質の複合体であり、この状態で細胞の中に存在しています。そのDNAは、二重らせん構造で良く知られていますが、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という塩基から構成されています。46本あるこのDNAが放射線によって傷つくというのは、放射線によってDNAが切断されることを意味します。対になって並んでいる塩基(塩基対)のうち一方だけが切断された場合、切断されていない他方を基に修復することもできるのですが、二本(両側同一ヵ所)とも切断されてしまうと、これは非常に危険です。細胞分裂をしている時が放射線の最も影響を受けやすいものです。人体の中で細胞分裂が盛んな細胞は、生殖器と骨髄、腸、皮膚です。放射性障害の急性症状としては、吐き気、脱毛、骨髄減少・血小板減少、出血、感染症が見られます(時系列的にこれらが発症)。胎児が放射線の影響を受けやすいのは、人間の基本的な構造がまだ形作られておらず、放射線の感受性も高いためです。そのため、受精から1日目から14日目までは死産となり、3週目から7週目が一番危険で、奇形・染色体異常の危険があります。しかし、胎児の生体検査は困難なため、科学的証明も難しくなっています。チェルノブイリのデータから見ると、1000mSvを境に急性症状が出やすいのですが、事故当時3歳以下の子供さんは特に影響を受けやすいので注意が必要です。これに比べると、事故の当時に出生した、あるいは事故後に出生した子供たちには影響が出づらい傾向があります。内部被曝の問題では、吸引や接触によって細胞のすぐ近くへ溜まってしまうと、距離に比例して危険が高まります。ただし、チェルノブイリデータによると200日〜300日により徐々に体外へ排出されます。ただし、福島の原発近隣地域の様に、恒常的に放射線を浴びる地域は非常に危険です。1000mSv浴びれば影響は確実に出るのですが、低線量被ばくについて言いますと、低線量でも細胞レベルでは影響は出ます。影響が出ないというのは科学的に間違っています。ただ、検証ができないだけです。「影響はあるけれど、どの程度かは判断できない」というのが正しい表現だと思います。ただし、放射線を浴びたからと言って、すぐガンになってしまうというわけではありません。ガンが発症する原因としては、がん遺伝子が暴走する場合と、がん抑制遺伝子が損傷してしまう場合とがありますが、人体には様々なDNAの修復能力を備えており、その一つに、破壊されたDNAを見つけてDNA修復酵素が働いたり、修復が不能な細胞を自爆(自爆的細胞死:アポトーシス)させています。このため、修復が可能な範囲では、影響が検出されません。また、急性被ばくと短期被ばくとでは、短期被ばくの方が危険であると言えます。と言いますのも、高線量の場合、DNAが2本とも切られてしまう危険性が高いからです。線量が倍になると、影響も倍になります。他方、長期(断続的)被曝はその間に修復が行われます。この壊れたDNAを修復あるいは自爆させる機能が、老化や紫外線、放射線照射によって低下すると、ガンが発生します。がん細胞は健康な人でも毎日発生していますが、通常はこのような働きによりがんが発症せずに済んでいます。人類をはじめ生物は長い進化の中で放射線への耐性を獲得してきました。しかし、自然放射線に加えて、福島第一原発事故のような放射線を浴びさせても良いのかということとは話が違うと思います。ある程度の修復能力があるので、「直ちに影響は出ない」という言い方はたしかにその通りなんですが、(分子レベルで)「影響がない」というわけではなく、あくまでも長年の進化によって獲得した修復能力によってい「影響が出ない」ということをご理解いただきたいと思います。科学者たちはそうしたことを知りながら、研究費欲しさに国の意向に従ってしまい、真実を語ってきませんでした。私は非常に情けなく思います。差別や偏見に惑わされず、正しい情報を得て、放射能を正しく怖がる必要があるのです。
(要約者:大塚)


※ 原発とめよう秩父人の定例会は毎月二回程度実施。会場はくろうさぎです。参加費はお茶代一〇〇円です。ご自由にご参加下さい。連絡はくろうさぎ0494-25-7373。



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